東京方面に帰るのは、ボクとK機長の2人だけだった。
残りの2人は関西方面に実家があるということで、飛行場から直接帰宅した。
試験官と2人きりの帰路。普通なら大緊張のはずなのだが、「どうせ落ちたし」と開き直っていたのか、ほとんど緊張もなかった。帰りの道中、ボクはK機長にエアラインパイロットの生活や日常についていろいろ質問した。
「仕事は楽しいが訓練は大変で、毎年国家試験を受けなくてはならない」——それまで知らなかった仕事の厳しさを聞き、「やっぱり落ちてよかったなぁ」と自分を納得させていた。
コックピット見学
ゲートで帰りの便を待っていると、K機長がおもむろに言った。
「コックピット見せてもらおうか?」
「え!?」
そんなことができるのかと、頭の中が真っ白になった。
「ちょっと待ってて」
そう言い残すと、K機長は出迎えに来ていたCAのほうへ歩いて行き、何やら言葉を交わして戻ってきた。
「頼んできたよ、たぶん大丈夫!」
満面の笑みでそう言うK機長が、試験官だったときとは別人のように見えた。かっこよかった。
帰りの飛行機は最新のジャンボジェット機だった。何やら計器やスイッチがたくさんあったが、何を見て何を話したかはすべて忘れてしまった。ただ「すげーーー!!!」という感情だけが残った。
(※筆者が受験したのは数十年前のことで、コックピットの見学はその便の機長判断で許されていた時代でした。現在は異なりますのでご了承ください。)
合格の予感
飛行の後半、座席に戻ってK機長との会話が続いた。
その終盤、K機長がこう言った。「パイロットになるにはね、体調が一番だよ。これから長い訓練に入るけど、その間も身体を壊しちゃったら元も子もなくなる。何よりも体調を一番に考えて訓練頑張ってね。」
——細かい言葉は定かではないが、ニュアンスとしては明らかにこういうことを言っていた。
「明日からまた就職活動かぁ……」と思いを巡らせながら話半分に聞いていたボクの脳裏に、一瞬「合格」の2文字が煌めいた。
帰宅して数日後、一人暮らしのマンションに戻ると、留守番電話のランプが点滅していた。
「採用担当の○○です。ご帰宅されましたら折り返しお電話いただけますでしょうか?」
留守電の声は、どことなくにやけているように聞こえた。悪い知らせを伝えるときのトーンではない。
ボクは合格を直感した。
ふと隣にいた彼女に目をやると、彼女も微笑んでいた。
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次回は、形式的ともいわれた6次試験と、3か月に及んだ就職活動の終わりについて書く。
〔つづく〕